2015年8月3日 22:00
【シネマモード】巨匠ペドロ・アルモドバルが描く毒舌満載の転落劇『人生スイッチ』
でも、ばっさりと身もふたもないほどに毒舌満載の転落劇は、小気味良い語り口のせいか洗練とスタイルを感じさせます。それは、刺激的でエッジの効いた前衛ファッションのよう。誰でも着られるわけではないけれど、ほかにはない個性的なアイテムを探す人々に支持されるようなファッション。
そしてそれを好む人は確実にいるのです。分かる人は分かってくれると、開き直れる自由奔放さはうらやましいほど。誰もが持てるわけではない大胆さと揺るぎないヴィジョン、アイディアを実現させる自信が、ひとつのスタイルを完成させるのでしょう。話の面白さ、ストーリーテリングの見事さはもちろん、このおしゃれ感がアルゼンチン史上最大のヒットを記録し、カンヌでもアカデミー賞でも高い評価を得た理由のひとつなのかもしれません。
プロデューサーは、スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルとその弟アグスティン。
二人は、自ら製作を買って出たほどの気に入りようだったとか。本作のダミアン・ジフロン監督は、ペドロとアグスティンを“この作品のゴッドファーザー”と呼びます。きれいごとではなく、誤解を恐れず、人生の本質、人間の本性を赤裸々に、でもチャーミングに描いてきたペドロとその弟だけに、真実を突いた辛口のブラックコメディに惹かれたのも当然でしょう。