2023年12月9日 18:00
俳優・杉咲花の魅力を紐解く――作品を背負う姿から感じる“責任と努力”
直近の出演作『法廷遊戯』の終盤でみせる感情の爆発には圧倒されるが、ただ「演技が凄い」のではなく、一言では言い表せられない「人間そのもの」を感じさせられるから胸を打たれるのだ。
その真骨頂といえる『市子』では、杉咲さんは表層的な「可哀想な人物」として彼女を演じていない。他者的な憐憫にとどまらず、本人の複雑な心模様――利己的なしたたかさも臆せずに表出している。2024年3月公開予定の『52ヘルツのクジラたち』でも、必ずや抜群の“心の解像度”を見せてくれることだろう。
“信じられる”存在であり続ける
これは個人の感覚だが、我々が生きるいまは“不信の時代”であろう――と思わずにはいられない。社会や世界が不安定ななかで何を信じていいのかわからない、他者を信じていたのに裏切られた/幻滅した、というケースがあまりに多すぎて疲弊してしまい、傷つかないために何事にも一定の距離を取るようになってしまった。ある種、諦念と警戒心に支配されがちで、逆にいえば「信じたい」という願いが強まっている状態――。それを個人に限定せず、時代のひとつの風と捉えるなら、こと俳優においては求められる領域が拡張していることだろう。