dTV、Hulu、Netflix…… スマホの動画サービス、今後はどうなる? - 情報通信総合研究所が解説
スマートフォンで海外ドラマや新作映画を楽しむ人が、筆者の周りにも増えてきた。dTVやHulu、Netflixなどのサービスがしのぎを削る国内市場だが、今後はどのような方向に進むのだろうか。情報通信総合研究所が12日に開催した国内有料動画配信サービスに関する記者説明会では、大手レンタルビデオが経営破綻に追い込まれたアメリカ市場の事例などが解説された。本稿で紹介していこう。
○1社の動きが他社に影響する業界構造
ICT総研の推計によれば、国内の有料動画配信サービス利用者は2015年末で1,000万人弱、2018年には1,500万人に到達する。なかでも10代~20代の若い世代には、動画をモバイル端末で視聴するスタイルが一般的になりつつある。この話題は“若者のテレビ離れ”や”スマホ依存”とも関連が深い。情報通信総合研究所の岸田重行氏によれば、調査機関による報告書にも「テレビ視聴の短時間化」や「モバイル端末の接触時間の増加」といった傾向が現れているという。
現在、日本国内でモバイル端末を介して視聴できる有料動画配信サービスには、ドコモの「dTV」、KDDIの「ビデオパス」、avexとソフトバンクによる「UULA」のほか、J:COMの「J:COMオンデマンド」、日本テレビの運営となった「Hulu」、米Netflix社の「Netflix」などがある。会員数はdTVが476万人、ビデオパスが100万人、UULAが124万人、Huluが100万人(いずれも昨年時点)。月額料金やタイトル数、提供コンテンツのジャンルなどに各社の個性が出ている。ざっと俯瞰すると10社近くが”群雄割拠”し、思い思いに展開している状態といえそうだが、岸田氏は、国内市場において各社の動きが連鎖的に波及しやすい業界構造になっていると説くが、どういうことだろうか。
例えば昨年、ソフトバンクはNetflixとの提携を発表した。するとソフトバンクの利用者の多くがNetflixの契約へと流れた。この結果、ソフトバンクが40%を出資するUULAでは会員数が減少。この煽りを受けたのはdTVとUULAにコンテンツを提供しているavexで、業績が悪化。
ひいてはdTVが競争力を低下させることとなった。コンテンツ提供者、配信プラットフォーム、通信プラットフォームといった各レイヤーが複雑に入り組んでいるため、こうした連鎖反応が起きるのだ。岸田氏は、Netflixの躍進に影響されてレンタルビデオの大手Blockbuster社が経営破綻したアメリカ市場の事例を紹介。そこで気になるのが国内ビデオレンタル大手のTSUTAYAの業績だが、岸田氏は、同社では2008年に動画配信をスタートしており、HuluやNetflixがカバーし切れていない新作に注力するなどして存在感を維持していると解説した。
国内では昨夏、既述の通りソフトバンクとNetflixが提携したほか、KDDIとテレビ朝日がスマホ向け動画配信で提携するなどの動きがあった。今後はどのように業界が形作られていくのだろうか。岸田氏はアメリカの大手通信事業者Verizon、およびAT&Tが米国市場で展開しているビジネスモデルを紹介しつつ、日本市場の今後と照らし合わせた。
●動画配信サービスによる3つの収入源
○3つの収入源 - 国内でも追随の動きがある?
岸田氏は、動画配信サービスを運営することで通信事業者は3つの収入源を手にすると分析。
それは月額料金の「サービス収入」、パケット使用による「通信収入」、アメリカでは一般的になっている「広告収入」である。
通信収入と聞くと、パケットを消費させることによる増収がすぐに連想されるが、このほかにも特定の動画視聴で消費するパケットを無料化することで、契約者の獲得・維持を狙う手法もある。米Verizon社などが既に導入している「ゼロレーティング」と呼ばれるビジネスモデルだ。日本国内でも昨秋、J:COMモバイルがJ:COM TV契約者向けにパケット非課金サービスを開始して話題となった。
米国市場では広告収入へ注力する動きもみられる。Verizonの見立てでは、デジタル広告は2016年にプリント広告を越え、2018年にはテレビ広告を越えるとのこと。そして2019年にはデジタル広告の50%をモバイル広告が占めるようになる、とする観測だ。
このほか米AT&Tでは、ショッピングやアンケートに回答することで、コンテンツ提供者から消費者にデータ通信量が付与されるサービスを開始している。
Verizonもこれに追随する構え。コンテンツ提供者がスポンサーとなることから、スポンサードデータの広告収入と呼ばれる。岸田氏は、その仕組みを「モバイルデータをカレンシー(通貨)と捉えている。市場には、通貨ではなく”データ通信”が流通する」と解説。ただ日本市場ではポイントのマーケットが発達しており、同様の動きが国内でも見られるかは懐疑的だった。
最後に、岸田氏は「国内の有料動画配信サービスは1,000万人、1,000億円規模の巨大な市場。動画配信サービスを持つ通信事業者は、戦略のオプションを多く持てる。ただ、戦略的にどう位置づけるかは、まだ各社とも模索中だ」とまとめた。
●日本国内で普及するには
○日本はまだ黎明期か
成熟したアメリカ市場と比較すると、国内における有料動画配信サービスはまだ黎明期といえるかもしれない。良く言えば伸びしろが残されている。例えばいまアメリカでTVを購入すると、リモコンにはNetflixへ接続するボタンが当たり前のようについているが、日本ではそこまで「テレビ」と「インターネット」の融合が進んでいない。レンタルビデオと有料動画配信サービスの共栄も、当面は続いていくだろう。
モバイル業界と有料動画配信サービスとの関係に話を絞ると、現在、大手通信キャリアでは家族割や家族とのデータシェアプラン、学割の適用期間の延長、光回線とのセット割、電力とのセット割など、顧客を“より長期に囲い込む”ための様々な施策を打ち出している。有料動画配信サービスが今後、その一翼を担うようになれば通信事業者にとっては旨味が大きい。ただ家族割や学割などは「いかにお得になるか」が最大の焦点であるのに対し、有料動画配信サービスは「見たいコンテンツがあるか」が最重要となる。
話が少し逸れるようだが、NTTドコモではスマホ向け放送サービス「NOTTV」を6月末に終了する。
会員数が伸び悩み、かねてから赤字が膨らんでいた。この失敗の理由はいくつか挙げられる。同社の加藤薫社長は1月の決算発表会で「スマホ向け動画配信サービスが想定より早く普及したため」と説明しており、それもひとつの事実だろう。このほか、利用者が見たいと思うコンテンツを提供できなかったことも失敗の一因であるはずだ。
動画を配信するサービスでは、利用者のニーズに沿ったラインナップをいかに多く揃えられるかが成否の鍵を握ることはいうまでもない。逆に、見たいコンテンツさえあれば途中にCMが差し挟まれても利用者は見続けたいと思う。先の記者説明会で岸田氏は、サービス収入、通信収入に加えて将来は広告収入が通信事業者の収入源になると紹介していた。アメリカ市場では一般的となっているモバイル広告だが、国内ではまず有料動画配信サービスの人気を定着させてからになりそうだ。