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「お金」に興味を持つという事 - セゾン投信・中野社長の半生記 (6) 「未来図」という名のファンドを設計、証券会社回りを始める

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「お金」に興味を持つという事 - セゾン投信・中野社長の半生記 (6) 「未来図」という名のファンドを設計、証券会社回りを始める
我が国における投資信託の法制度も歴史もそれまでほとんど触れることがなく、業界の状況などについても関心の埒(らち)外でしたから、まずは実際の投信業務に精通している方からご教示いただこう、と大手証券会社の営業企画部経由で系列の投信会社をご紹介いただき、現場の方々から実態を見聞して業界の慣習や販売会社との関係に至るしきたりまで教えていただきました。

そうして投資信託業界の全容を把握して行くにつれ、投資信託会社を自分たちが日本で創ることの困難さがわかってきました。

当時は投資信託の設定が許される投資信託委託業は免許制であり、事実上大手証券・銀行・保険会社系列以外への門戸は閉じられていたのです。

私は自分が属していた投資顧問会社を投資信託会社に転換させることを想定して研究していたのですが、どうやらそれは無理だと判断するしかありませんでした。

ならばと、外資系金融機関との合弁での投資信託会社設立をと考え、米国大手投資銀行ベア・スターンズ社との話し合いを始めました。

ベア社は当時日本での知名度も営業実績も乏しく、セゾングループ資本との合弁で投資信託ビジネスの新境地を開拓できるとして、積極的に取り組むことになったのです。

ところがこれも芳しくありませんでした。

とにかく既存金融業界以外の者にとっては、この頃はとてつもない参入障壁が存在していたのです。


それで次善の策として、ベア・スターンズ社がニューヨークに有する資産運用子会社ベア・スターンズ・アセットマネジメントが持つ機能を使って、同社と共同運用するルクセンブルク籍のファンド(外国籍投資信託)を組成することにしました。

それを日本に持ち込んで公募登録して、個人投資家の資金を集めようというプランです。

それまでの日本の投資信託業界における決定的な欠陥、それはじっくりと資産を増やして行く財産形成型ファンドがほとんど存在していなかったことです。

それゆえベア・スターンズ社と徹底的に話し合った運用コンセプトは、配当を極力抑えて長期で複利効果を活かし、資産を育てながら個人投資家が将来のために投資するツールとなるファンドの実現! つまり私がずっと渇望してきた長期運用をど真ん中にすえました。

ベア社側もこれまでの競合他社との差別化を重視し、真っ当なポートフォリオを作ろう、ととても真摯に議論を深められました。ニューヨークと東京をお互い行き来して、日米の運用者がそれぞれの得意分野で役割分担する運用、斬新でかつ至極ノーマルなコンセプトによるグローバル投資の外国債券ポートフォリオで「未来図」という名称を持つファンドの設計ができ上がりました。

さて、次はどうやってこのファンドの投資家を募って行こうか。

投資信託は証券会社に販売してもらう、という業界の常識的慣習に則って、私たちも当然の如く証券会社まわりを始めました。


準大手から中堅・地場まで10数社を訪問したでしょうか。

そこで私はこの業界における徹底した横並びルールと堅固なる慣習の存在を目の当たりにすることになったのです。

まず私にとって初めての体験だったのは、証券会社のもうひとつの顔でした。

それまで私が接していた証券会社はセールス部門です。

投資顧問会社はバイサイドと言って、ブローカーである証券会社を通じて株や債券などを買うお客さんの立場でしたから、証券会社の人たちは皆低姿勢で愛想よく接してくれたのですが、今回私が訪れた証券会社の先は投信部の人たち。

営業部門とは全く逆の構図がそこにはあったのです。

今度は先方が商品選定をするお客の立場です。

私がこれまで知ることのなかった高圧的で不遜な証券会社の顔がそこにはありました。


そして業者としての立場を初めて味わったのです。

各社の投信部を回って、商品説明をしたあと必ず最初に出された条件は、販売手数料3%と信託報酬の半分を代行手数料として証券会社が取る、というフィーの配分でした。

販売手数料は販売会社が生業として得るものですからもちろん認識していましたが、「代行報酬」という信託報酬から配分要求される手数料の存在を私は初めて知ったのでした。

どの証券会社に行っても条件は全く同じでした。

コストは投資家にとって長期での運用成果を損なう甚大なマイナス要因です。

販売手数料は購入時一回限りのものですが、信託報酬から払われる「代行手数料」は継続的なコストとなります。

私の会社とベア社のフィーに販売会社が要求するフィーがダブルで上乗せされて、結局は既存の投資信託と同様の高コストな、ごく普通のファンドになってしまいました。

そして販売会社の担当の人たちを接待して、販売実績に応じた営業マンへの報奨負担なども約束させられて、投資信託における販売会社の壁を実感させられたのでした。
この業界におけるヒエラルキー、それは販売する側が圧倒的に強い発言力を持ち、運用会社は販売会社の意向に全面的に沿ってしか行動できない、まさに出入りの下請け業者なのです。

この時私はまざまざとその実態を認識させられたわけですが、これが業界の常識だと言われると、それを受け入れる発想しかなかったのです。

それと正直多くのファンドマネージャーと言われる仕事をしている者にとって、公募投資信託を運用するということはそれなりのステイタスで、それが実現するならという自分への甘さが妥協を許容させてしまったことも事実です。

そしてこの妥協体験は、のちにセゾン投信におけるアンチテーゼの企業理念を、頑固一徹に構築する糧となる原体験でもあるのです。

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