【エンタメCOBS】もしも科学シリーズ(33):もしも摩擦がなくなったら
宇宙船のように重力を使って向きを変えるスイング・バイに頼るほかないが、計算を間違えたらどこまで飛ばされるか知れたものではない。
日常生活も困ったことが多すぎる。風呂に入っても身体が洗えないし、一服しようにもマッチに火がつかない。服を着替えることも、歩くこともできない。誰かと握手しようとしても手が滑り、ドジョウすくいのような無為な動作が続く。
動作を邪魔する要素から解放されるのと同時に、他人や物体との接点を奪い去り、永遠の孤独を味わいながら一人で生きていくしかなさそうだ。
■形のない世界
日常生活はおよそ予想通りだが、ミクロの世界では大問題が生じる。物体が滑るのと同様に、分子同士の摩擦もなくなってしまうと、形を成すことができなくなってしまうからだ。
静電気のようにプラスとマイナスの極性から生じるクーロン力、極性に関係なく互いを引き合うファン・デル・ワールス力などの分子間力(ぶんしかんりょく)が働き、これらが小さな分子を寄せ合い、物体の形を成す原動力となっている。
中でもクーロン力は強く、1兆分の2ミリ離れた陽子間には57.7Nもの力が働く。たった1兆分の、その1兆分の1.67グラム(=1.67÷10の24乗)