恐ろしく素敵に騙されたい 【TheBookNook #16】
“異形”の存在を否定して、当たり前を良しとする社会。
不条理とグロ描写と胸にこたえる家族関係のどこか生々しい描写が同居するこの作品。読後は、自分の心にある冷酷さや未熟さと、嫌でも向き合うことになります。共感できてしまうところが多々あった私は、はたして、人間に向いているのでしょうか……。メフィスト賞満場一致の受賞作がここに。
3.フランツ・カフカ『変身』
“ある朝、目が覚めたら虫になっていた……”。
ひとつ前に紹介した作品と設定は似ていますが、展開は真逆。個人的には“人間に向いてない”は「理想」、本作は「現実」という印象を持ちました。
突然変わった自分の姿に困惑する主人公の心情、変わっていく周りの目、対応。人間としてのアイデンティティを失い、それに抵抗すればするほど空回りしていく日常。
現実世界で虫になるなんてことはもちろんないが、でも、例えば、ひどい事故に遭い、顔の形が丸っきり変わってしまい、さらに失明・失聴することは私にも充分にあり得る。そうなると私は職を失い、本だって読めなくなる。この本の主人公のように精神的に“死んだ存在”として生き続けるのかもしれない。
そんなとき私の隣には誰かがいてくれるのだろうか。