本選びのすゝめ【新潮社編】【TheBookNook #21】
教科書にもある誰もが知るあの“ごんぎつね”や小野不由美さんの“十二国記シリーズ”も新潮社さんです。ぜひ、「新潮社」さんにしかない魅力を味わってみてください。
1.小川糸『とわの庭』
全盲の幼い主人公が一人称のまま物語が進んでいく珍しい本作品。もちろん視覚を排した描写を余儀なくされるのですが、嗅覚と聴覚で補完した物語の世界は、今作では、むしろ眩しいほどに“色彩”に満ちています。
いやあ……さすが小川糸さん。孤独で壮絶な幼少期を過ごす幼い目線だからこそ読んでいて辛くなる場面や、文字だけでは理解し難いこともいくつかあり、どれだけ私が普段視覚に頼って生活しているか思い知らされます。
どんなに世間が批判しても、どんなに不完全な関係に見えていても、生きているって本当にすごいこと。“パンケーキは幸福になるお薬だ”“誕生日というのはなんて素敵な甘い香りのする日なんだろう”。
全盲の少女から発せられるどこまでも素直で繊細な言葉達は私達読者を辱めるほど美しく光って魅せます。
この物語序盤の“多幸感”と、終盤の“幸せ”は全く形の違うものだけれど、目を背けたくなるような日々の中にも、誰にも理解される必要のない確かな愛があったのだと感じさせられました。