現代でも、お母さんが成人式で着た振袖を娘が着たというお話を耳にすることがあります。家族や伝統という概念が薄れている現代において、これはいくらお金を積んでも得られない価値のあることだと私は思います。
■感性豊かな平安の人々の色彩表現「襲の色目」
日本人は大昔から色彩感覚に優れた民族だといわれています。平安時代には、「十二単」のように、衣服を重ね合わることで日本の美しい四季の風景や草花の色合いを表現していました。これを「襲(かさね)の色目」といいます。
「若草」「杜若(かきつばた)」「菖蒲」「花薄(はなすすき)」「枯野」「氷襲(こおりがさね)」など、薄い色から濃い色までおよそ200ともいわれる色目の組み合わせは、世界にも例を見ない日本独特のカラーコーディネーションです。
当時、色目にはさまざまなルールやマナーがあり、ちょっと違ったカラーコーディネートをすると「センスがない」を評価されてしまったのだそう。平安の女性たちも、おしゃれな装いをするには感性と知識が必要だったのですね。
『新古今和歌集』などを読んでいると、自然の移り変わりの情緒を自分と重ね合わせながら、ストレートに、叙情的に歌にして詠みあげた日本人の繊細な感性はすばらしいなと感心してしまいます。