31音にこめられた恋愛模様 21世紀の女性歌人たちがつむぎだす短歌
■一途に相手を思いつづける歌
次に紹介する田中雅子は、決してふりむいてくれない人を思いつづける、静かな作風です。
「許される程度に君を思う夜壁はぶあつく距離を知らせる」田中雅子(『青いコスモス』青磁社)
「人づての便りを拾い集めれば嗚呼君が今この世に生きている」同(『令月』砂子屋書房)
「ほんとうはかなしいロシアの民謡(うた)なんだ トロイカを君は教えくれにき」同
頭では理解していても、心は一途に「君」をもとめてしまう。せつなさと、やりきれなさが伝わってきます。
田中雅子は、苦しい心情をさりげない言葉に託します。さらっとした言葉選びをすることにより、美しく哀しい情景が強く胸に迫ってくるのです。
■熱い気持ちと冷静さを表現
最後は、情熱的でありながら、ガラスのような繊細さと、鋭さを持ちあわせている谷村はるかの作品を紹介します。
「薄い鏡貼りつめられたきみの内部小さな言葉ほど反射する」谷村はるか(『ドームの骨の隙間の空に』青磁社)
「土砂降りに打たせておいた そばで傘さしかける資格などないから」同
「少年と少女みたいに回り道少年と少女ほど時間はないのに」同
大人になれば、人と人との間合いの取り方にたけてきます。言葉を変えると、駆けひきが上手になるということでもあります。
ところが、恋をすると、そんな自分自身が逆にもどかしくなることも。
思いをよせる人と素直に向きあうことは、大人になるにつれて、むずかしくなるものかもしれません。
歌集『ドームの骨の隙間の空に』は、つきつめて人を思う気持ちと、そんな自分自身を冷静にみつめるまなざしが交差する秀作だといえるでしょう。
これからはじまる恋。おそらく実らない恋。素直になれない恋。恋愛には、さまざまなバリエーションがあります。人を思う気持ちが言葉に変わる瞬間に飛びかう火花。その美しさに息をのむのは、いつの時代にも共通している感覚なのかもしれませんね。
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