連載記事:わたしの糸をたぐりよせて

夫とは口喧嘩ばかり…幸せな家庭が壊れかけていく【わたしの糸をたぐりよせて 第1話】


■結婚、妊娠、仕事…私の思い描いたデッサンは…

――私と亮は、同じ会社の先輩後輩という仲だった。

第一志望群のアパレル業界は全滅というありさまで、内定を勝ち取るためにはなりふりなんて構ってられなかった。そんな中、唯一採用通知が届いたのが地元でも有名な繊維メーカー。そして、集合研修をへて、配属になったのが亮のいる総務部だった。

先輩後輩という間柄から彼のおおらかさと筋肉質なところに惹かれて私から告白。25歳で結婚して、27歳で悠斗を出産。その後職場復帰の予定だったんだけど……。
夫と出会ったのは…『わたしの糸をたぐりよせて』 
一枚の転勤辞令で私は仕事を辞めることになった。
転勤先に私の居場所を作ってもらえそうにないのは、今までの先輩たちを見ててよくわかってたから。

そうして戻ってきた地元。

たしかに出身の市には変わりないけど、実家からは車で45分以上かかるところ。それなのに、亮は私の地元への転勤が決まったことで、「良き夫」ステータスを手に入れたと思っている。

久々に帰った地元は、あぜ道だったところにはショッピングモールができ、ハワイで有名なハンバーグショップもオープン。人やモノの流れがガラリと変わり、まるで浦島太郎……いや、浦島マザーみたいな気分だった。

せめて働いていれば、会社への貢献は少なかったとしても社会の片隅に立っていられる小さな自信があったかもしれない。職場のママ同僚さんとLINEで上司の無理解を嘆きつつ、夫の愚痴を言って笑いあえたかもしれない。
慌ただしい朝の食事や悠斗の準備に夫婦で追われながらも、夫婦で共働きの同士としてがんばるはずだったのに……。



それなのに、今の私は……。

変わってしまった地元、知り合いもいない街……。

都会らしさをがんばって取り入れましたといわんばかりの新しいマンションに、私は悠斗とたった二人だけで閉じ込められたような気分がどうしても抜け落ちないでいる。

気晴らしに児童館に行ったところで、すでにグループができているところには入り込めなかったし、いろいろイベントを調べて行ってもその場限りで終了するからママ友なんて一切できなかった。

それでも、私は泣き言なんて言わなかった。亮に負担を掛けたくなかったから。それなのに……。


「主婦はいいよな、1日好きなことして過ごしてるんだろ?」

いつからだろう、亮がこんなふうになっちゃったの。私を見下すような言動が、いつの間にか増えた気がする。これまで着心地よかったはずのシャツから少しずつ糸がほつれてきてしまったような感覚。
それに、

「あー、今日も疲れたから寝る。おやすみ」
私と夫は、妊娠してからというもの一度も夜に抱き合ったことがないのだ『わたしの糸をたぐりよせて』 
私たちは、悠斗を妊娠してからというもの一度も夜に抱き合ったことがないのだ――。

イラスト・ぺぷり
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