近年、よく耳にするようになった「SDGs」という言葉。大切なことのようだけれど、どんな内容なのかよく分からない、という人もいるのではないでしょうか。
SDGsとは、簡単に言えば
「持続可能な社会」を目指して定められた目標のこと。6月26日、このテーマについて小学生とともに考え、実現に向けた課題に取り組む
『小学生SDGsサミット2021』(主催:朝日小学生新聞・読売KODOMO新聞/共催:株式会社伊藤園)が開催されました。気候変動問題が身近に迫る今、世界規模でどのような取り組みが行われているのか。未来のキープレイヤーとなる小学生たちの豊かな発想力にも注目です!
■SDGsって何? どんなふうに向き合っていけばいいの?
サミットの冒頭では、まず主催である朝日小学生新聞から清田編集部長、読売KODOMO新聞から新庄編集長が登壇。両紙は子どもだけでなく老若男女の読者を持ち、日本語を学ぶ外国人などにも愛されている新聞です。普段は切磋琢磨し合う2紙ですが、SDGsは皆で取り組んでいかなければならないという危機感を持っている、一緒に考えていこう……というメッセージが送られました。
続いて、このテーマについて専門家らによる講演が行われました。まずは慶應義塾大学の大学院政策・メディア研究科の蟹江憲史教授から、「SDGsってなんだろう?」というテーマで、SDGsの内容を分かりやすく噛み砕いて説明いただきました。
SDGsとは、2030年までの国際社会共通の目標として定められたもの。2015年に世界のリーダーたちが話し合い、17の目標と169のターゲット(具体目標)で構成されています。SDGsには「地球環境を良くすること」はもちろん、「人と人の関係をよくすること」や「経済を円滑に回すこと」も含まれており、
そうでなければ、世界中のだれ一人も取り残されず、皆が幸せに生きる状況には到達できない、と蟹江教授。
SDGsで掲げられている17の目標を叶えていくために、重要な3つのポイントも紹介されました。
1. 世界中の皆が「どうやってやるか」を、「(SDGsの)目標から考えること」。2. いずれかの目標に偏ることなく、「17の視点(すべて)から考えること」。
そして、
3. 取り組みの成果や効果をきちんと「測ること」。私たちがSDGsとどう向き合っていけばいいかが、よくわかる内容でした。
ちなみに、サステナブル・ディベロップメント・レポート(持続可能な開発報告書)内で、日本は現在18位にまでランクダウンしているそう。日本は特に、ジェンダー平等や気候変動の具体的な対策ができていない、という課題があることが紹介されました。
続いて、蟹江教授のゼミから、学生を代表して落合航一郎さんが登壇。現在2つの取り組みを行なっているそうで、ひとつは、
学生独自の視点による、企業評価ランキングの作成。「SDGsに熱心な企業」を学生たちが積極的に選んで入社すれば、企業側も変わらざるを得ないのでは」という仮説を立てて進めているそうです。
もうひとつは、
オリンピック・パランピックが社会に与える影響について、SDGsを用いた分析を行なっている、とのことでした。
「学生の立場でできることをやっていきたい、世代を超えて皆で話し合い、よりよい社会を作っていこう」といったメッセージで締めくくられました。
■「アツいまち」や伊藤園が行なっている、SDGsの取り組み
続いて、企業や法人視点でのSDGsの取り組みが紹介されました。まずは、一般社団法人アツいまちの代表理事・中島雄平さんが登壇。同法人は、国内最高気温記録を持つ5都市で集い、毎年「アツいまちサミット」を開催しています。
今年のテーマは「地域資源を活用した熱中症対策“体感温度×-10℃”」。各都市それぞれの地域特性を活かした取り組みのほか、空中スイカ・グリーンカーテン事業など、全都市共通の活動も行なっています。詳しくは、
こちらを参照ください。
各都市で連携し、暑さ対策の啓蒙をすることは、SDGs11番「住み続けられるまちづくりを」という観点だけでなく、13番「気候変動に具体的な対策を」、17番「パートナーシップで目標を達成しよう」にも該当します。
今後も17すべての目標を達成できるように歩んでいきたい、という展望が語られました。
この「アツいまちサミット」を各都市とともに続けているのが、今回のサミットの共催を務める伊藤園です。マーケティング本部のブランドマネジャー・相澤治さんが登壇し、「伊藤園の取り組むSDGs」について紹介されました。
「健康ミネラルむぎ茶」「お〜いお茶」などを手がける伊藤園では、持続可能な農業モデルとして
「茶産地育成事業」を行なっているほか、
大量に出る茶殻や麦殻の有効活用や、
ペットボトルの循環リサイクル推進にも力を入れています。
茶殻は緩衝材やマスクケース、名刺、段ボール、封筒、スポーツ競技場の芝生の原料などにも有効利用されており、消臭・殺菌効果なども持っているため、今後も期待大の素材です。
また伊藤園は2030年までに、全製品のペットボトルをリサイクル素材100%にする目標も掲げており、「世の中と一緒に、SDGsに取り組んでいきたい」という展望が語られました。
■小学生の豊かなアイデアが発揮された、優秀賞作品
さて本サミットでは、『
2030年の夏に快適に暮らすためのアイデア』を小学生から募集しており、今回、500件を超える応募の中から最優秀に選ばれた3作品の発表と表彰式が行われました。受賞作品の内容を、かいつまんでご紹介します。
・黒木秋聖さん:「人工的なクモの糸で世界を救おう」
TVで「クモの糸は炭素繊維の15倍の強度を持つ」と知り、強くて環境に優しい素材を使わないのはもったいない!と、2つのアイデアを生み出した黒木秋聖さん。まずひとつは、
人工的なクモの糸で円錐形の土壌ポットを作り、木の苗を育てて砂漠などにドローンで効率よく植樹していく……というアイデア。緑化によって地球温暖化の進行を抑えたい、という狙いです。
もうひとつは、自分の家にある「木陰の涼しさ」に着目し、
樹木のある家や、ツタ類をベランダで育てるマンションは非課税にし、逆に土地や場所があるのに樹木を育てていない家やマンションは課税する……という新しい課税制度のアイデア。人々の意識改革を目的とした制度であること、庭木の剪定や蔦類の販売等で新たな雇用も生めるのでは?と副次的効果にも言及していました。
発表後の講評では、「クモの糸を集め、バイオリンやハンモックの糸に活用する取り組みをしている人もいる。実現可能性があるのでは。夢物語ではないと感じた」といったコメントも。2030年になる頃には、皆が「地球は全生物のもの」という意識を持って生活してほしい……という黒木さんのまっすぐなメッセージは、大人たちの心に響くものでした。
・小泉英太郎さん:「空気から水を作る装置」
続いて、授業や子ども新聞の記事でSDGsを学び、また北極の氷が溶けている事実を知って、このテーマに興味を持ったという小泉英太郎さん。「釣りが大好きで、大人になったら世界中の海で釣りがしたい。そのためにも自然をよい状態で残してほしい」と動機から思いついた3つのアイデアを発表しました。
1つ目は、「
砂漠地帯に、空気から水を作る装置を置く」というアイデア。ヨーロッパに長く残る美しい建築物のようにすることで、人々に大事にされる施設になるのでは?と細部までこだわり抜いた計画を語ってくれました。
2つ目は、世界中のすべての都市の窓ガラスに「
透明酵母菌熱吸着シート」を貼り、酵母の力で温度調節や空気の浄化を行い、暑さ対策を行う……というアイデア。貼るだけなら世界中の人が参加できるのでは?という発想には、「非常にキャッチーなアイデア」「誰でもができる方法はないかと考えたことが素敵!」という講評が送られていました。
3つ目は、自身の学校にある花壇からヒントを得て、「
学校や会社があらゆる土地を管理して、植物を増やしたらいいのでは?」というアイデア。「すべての道やスペースに木や花が植えられたら、大好きな虫も増える」といった発言もあり、自然への愛情がたっぷりと伝わってくる発表でした。
・山田遥斗さん:「5rules」
山田遥斗さんは、「5つのルールで心を変えよう!」をテーマに、
2030年までに以下の5rulesを続けて、温室効果ガスを50%減らそう!という計画を発表してくれました。
1. マイボトルに5℃ドリンクを入れて持ち歩く……1年間マイボトルにするだけで、28kgのCO2を削減できる
2. 5飯(ごはん)を残さない……食品廃棄によるCO2排出量を減らす
3. 週5日は、牛肉を食べない……温室効果ガスの排出量が圧倒的に多い牛肉を食べる回数を減らすことで、CO2を削減
4. 5人以上の友達と、本を交換する……本1冊を作るのに約3kgのCO2が排出されるため、「買う」から「借りる」に変えよう
5. シャワーは5分/1回にしよう……毎日1分短くするだけで、年間69kgものCO2削減につながる
5に着目した理由は、「五輪」など世の中には5を使っているものが色々とあるし、
少なすぎず大きすぎない数字なので、誰もが無理なくできるアクションの鍵になるのではないか……と考えたからだそう。非常に頷かされる観点ですね。学校で学んだ海洋問題から、興味を発展させたそうで、「ひとりでも多くの人にアクションを起こしてほしい」「自分に何ができるのかをもっと知りたい」と、未来への確固たる意思を語っていたのも印象的でした。
誰にでもわかりやすい打ち出し方やプレゼン力には、「プロのコピーライター並み!」という感心の声も。固い説明に終始しがちなSDGsのテーマを、「5飯」のようなクスッと笑える表現で楽しくできるんだな、と教えてもらった……といった講評も送られました。
そのほかの総評は次のとおり。
・朝日小学生新聞 清田編集部長
紙からでは分からない思いや意図も伝わり、プレゼンの大切さを改めて実感した。夢物語のように聞こえるアイデアでも、そういうところから未来への希望が膨らんでいく。「こんなことはできない」で片付けず、「ではどうしたら実現するか?」を考える中で、今までにないヒントが生まれるのではないか。
・読売KODOMO新聞 新庄編集長
先進国と途上国の間の軋轢などもあるが、SDGsで何よりも必要なのは「皆が参加すること」。我々は、「自分が今、何ができるのか」「自分も参加しなければならないのでは?」と感じられる提案をする必要がある。「皆に参加してもらうような方法を、どう提案するか」を模索していきたい。
・慶應義塾大学 蟹江教授より
SDGsを考えるときには、未来のほうから今を見つめる“バックキャスト”の観点が必要になる。身近なところにヒントがあり、そこにフォーカスを当てることは非常に大事。日常で気づいた「おや?」を発展させ、応用させていくと、世界を変えるヒントにつながっていく。
■暮らしを工夫する「緩和」対策だけでなく、「適応」の対策も必要
最後に、最前線で環境問題に取り組んでいる、環境省・地球環境局から深澤友博さん、小川咲季さんが登壇。「緩和」と「適応」という2つの観点から、「今から誰でもできる環境対策」というテーマで講演が行われました。
皆で二酸化炭素をできるだけ出さない暮らし方を目指そう、というのが「緩和」の対策です。
例えば、出かけるときには「スマートムーブ」を考える……公共交通機関や自転車、徒歩を活用する、できるだけ二酸化炭素を出さない運転をする。屋内にいるときには、「クールビズ」「ウォームビズ」……衣服の調整をする、カーテンを閉めてエアコンの効果を高める。
そのほか、家電は省エネ性能が高いものを選ぼう、宅配便はできるだけ1回で受け取ろう、エコカーを選ぼう、ZEH(エコ住宅)を選ぼう、再生可能エネルギーを使った電気の契約をしよう、といった具体的な行動が紹介されました。
一方で、気候変動にうまく向き合い、できるだけ影響を受けないように暮らす「適応」にも取り組む必要がある、というメッセージも。
すでに起こってしまっている気候変動に対しても対策を行わなければ、暮らしを守れないため、日頃からの「熱中症対策」や「自然災害対策」の重要性が語られました。
最後に両紙編集長からは、未来を担う小学生へのメッセージも送られました。これから先の人生、日本人の美徳として「黙って地道にやれ」と言われることもあると思うが、気にしないでほしい。自分の考えを発表することや色々な人の考えを知ることは、よりよい考えにしていくためにも非常に大切こと。SDGsは皆で考えていく問題だから、どんどん発表して、友達ともたくさん話していけば、楽しく取り組めることにもつながるはず……と、人生の先輩としての思いがこもった言葉が送られました。
■まとめ
環境問題を避けては通れない時代を生き抜く、これからの小学生たち。未来の地球に高い関心を持ち、自らの考えを積極的に発信する姿勢を持っている子どもたちがいることに、頼もしさを感じました。
豪雨や台風が起こりやすい暑い夏には、気候変動の問題もより身近なものに感じられますよね。SDGsの目標を叶えるためには、皆で一緒に考えて、取り組んでいくことが何よりも重要です。夏休みの自由研究のテーマに選んでみるもよし、皆さんのご家庭でも、折に触れて「SDGs」について話し合ってみてはいかがでしょうか。
(取材・文/外山ゆひら)