2024年3月15日 19:35
ハルノブムラタ 2024年秋冬コレクション - 簡潔さのなかに浮かび上がる人間味
こうした簡潔さは、素材の質感を通して、いかにフォルムが生まれるのかを示している。上述のダブルコートには、ハリとドレープの引き立つファブリックを用いることで、ダイナミックなシルエットを際立てる。襟を大ぶりに設定したコートには、膨らみのあるウール素材を採用し、丸みを帯びた佇まいに。あるいは、コンパクトな丈感のハイネックニットにはモヘアのボアを採用しており、切り詰めたフォルムながら、ボアのボリュームによって存在感を獲得しているといえる。
さて、ザンダーの作品のなかで村田がとりわけ関心を寄せたのが、今季のテーマとなっている《舞踏会に向かう3人の農夫》であったという。背景に広がるのは農地だろうか。3人の農民が、些か不慣れな佇まいでスーツに身を包んでいる。隣街の舞踏会に向かうのだ。
そこには、農村から街へと向かう──先取りして言うのならば、そこに近代文明の「発展」を読み込んでもよい──その姿が、どこか不安な表情のうちに捉えられている。その装いは、襟を大きく取った上述のコートの直接的な着想源となっているという。
ところでなぜ、3人の農夫は「不安」なのだろう。ザンダーは街の記録写真において、まずこのような農民を捉え、次に種々の専門職に携わる人々を撮影し、そして最後には街に住まうホームレスにレンズを向けたという。