炊事など家事全般を1人でこなし、理容店もたった1人で切り盛りしてきた。昭和11(1936)年に理容師免許を取得して以来80年余、いまも衰え知らずで、毎日ハサミを握る。
「いまはもう、常連さんしか来ないです。その常連さんも亡くなったり、老人ホームに入ったり、だいぶ減っちゃいました」
それでも「よそではダメなんだ、箱石さんじゃなきゃ」と、わざわざ足を運ぶ人も少なくない。
箱石さんがここに「理容ハコイシ」をオープンしたのは、昭和28(1953)年8月13日、お盆の前日だった。
「やっぱり田舎はお盆と正月、こざっぱりするのが習わし。お盆の前には皆、床屋にかかります。だからその日を狙って開店したの」
戦略は大当たり。
店は開店当初から大盛況だった。
箱石さんは周囲から「東下り」と呼ばれた。東京で最新技術を学んだ理容師という褒め言葉だ。口コミで人気は広がり、県境を越え茨城や福島からも客が来た。毎年、大みそかから元日の昼までは客が途切れず、一睡もできないほど。「開業のときの借金の返済と、子どもの教育費を稼ぐために、もう、無我夢中で働きました。それで、気付いたら100歳を超えてた(笑)」
取材の日。