柄本明 息子・佑と時生へ「難しいことをやらないと、つまらない」
言葉で言うだけではない。自ら演じて見せるのだ。
グッと腰を落とし、肩をすぼめ、ヨチヨチ、トボトボ、舞台の上を歩き回って、時生さんに近づいていく。佑さんも時生さんも、その場にいたスタッフ全員がその動きにくぎ付けになった。そこにいたのは、明さんではない。ウラジミール、その人だ。
「自分が役者だから、言葉より、実演したほうが早いからね。そうしろと言っているわけではなく、ニュアンスを伝えるためにね」
明さんは、家族のことを話すのが照れくさい。
《世間的にみっともないよね。僕の演出で彼らが演じるってことだけでも》(映画『柄本家のゴドー』より)
そんな明さんに代わって、『柄本家のゴドー』を監督・撮影した山崎裕さんが補足する。
「映画の撮影中も、よく、下北沢の喫茶店で、家族でお茶を飲んでいました。もちろん角替(和枝)さんも一緒です。そんなときは仲のいい親子です。ところが、いざ芝居となると、柄本さんは一線を引く。“芝居の鬼”になるんです」
当然ながら『ゴドーを待ちながら』に挑戦する息子たちへの稽古に熱が入った――。
昨年2月、「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」でのインタビューで、佑さんは、撮影当時の緊張感を次のように語っていた。