柄本明 息子・佑と時生へ「難しいことをやらないと、つまらない」
「なんか(今、映画を)見ていてもヒヤヒヤする。親父の顔、コワイですもん。初日は笑っていましたけどね。何日かたつと、暗くなってくる。親父にガッツリ演出してもらうのは、これが初めてだったんです。親父に殴られたことはないんです。でも、殴られるより怖い思いはしました。怒るときに、爽やかさがないんです。
楽日前日の公演の後で『何やってるの?』って親父に言われたのが、表情から何からメチャ怖かったですね」
時生さんもこう答えている。
「親父が現場や楽屋に来ると、親父の空間になるんです。親父の言葉を理解しているつもりですが、言われた瞬間、全身がビビりだす。ブルっとする。楽日に、兄ちゃんが芝居で振り向いたとき、急に顔が引きつったんです。僕がそのあと、振り向いたら、親父が(舞台の)袖の奥のほうに見えて……。『殺すぞ』って言ってるんです!本番中に凍りつく思いでした」
もちろん、そんな父の怖さは、兄も弟も、稽古に入る前から百も承知だった。それでも、あえて明さんに演出を頼んだ。
佑さんは言う。
「でも、いま思えば、怖い思いができるって幸福だなって」
時生さんも言う。
「怒られた後って、落ち着くことができるんですよ」