渡辺美佐子 朗読劇を続け34年、子どもたちに語り継ぐ「私の原爆」
でも、広島と長崎で朗読劇を初めてやったときは、怖くて怖くて、ガタガタと震えました」
ベテラン女優をそこまで追い詰めたものはなんだったのか。
「申し訳ないというのか……とても複雑な気持ちでした。現実に原爆の被害にあわれた方、悲惨な体験をされた方たちの前で、これから私たちがしようとしてることって、いったいなんなんだろう、という思いがありましたね。本当につらい思いをされた人たちの、またそのつらさを呼び覚ますようなまねをしてもいいんだろうかって」
上演後、恐れていたようなクレームは一切、なかった。それどころか後日、こんな話を伝え聞いた。
「当時の広島や長崎では、被曝したことを隠している人も少なくなかったんです。自分のことより、子や孫の就職や結婚に支障が出ることを心配して、多くの人が口をつぐんでいた。ところが、私たちの劇を見てくださったある女性が『あの日のことを体験した自分たちが、知っていることを伝えなければ』と、勇気を振り絞って語り部になってくれた。
それは本当にうれしかったですね」
’07年、朗読劇を主催した地人会が活動を停止。23年続けてきた朗読劇も幕を閉じるかに思われた。