STAP騒動が逆風に…“iPS細胞で網膜再生”偉業にあった危機
当時、ES細胞から網膜細胞を作ることに世界で初めて成功していた高橋さんだったが、生命のもととなる受精卵を使うES細胞には倫理的な問題があるとされ、臨床に進む道は途絶えてしまっていたのだ。
そこで、高橋さんは、iPS細胞から網膜細胞を作ることができるかもしれないと考えた。
「5年後には網膜再生の移植手術を実現しますから、私にもiPS細胞を提供してください」
成人の体から作られるiPS細胞は倫理上の問題もクリア。加えて、移植による拒絶反応もなくなる。つまり、ES細胞で障壁となっていた難題が全て解決されるのだ。
「5年、そんなに早く!先生にお任せします。頑張ってください」
あの時の山中教授の言葉を、高橋さんは忘れなかった。
その後、高橋さんたちの研究は順調に進み、山中教授との約束どおり12年にはiPS細胞による加齢黄斑変性という目の病気の臨床試験が厚労省から承認された。
同年、山中教授がノーベル生理学・医学賞を受賞。そんな追い風を背に、iPS細胞を用いた再生医療の世界で初めての手術が行われようとしていた矢先の、14年1月のことだった。《STAP細胞論文の不正が発覚》
研究員の小保方晴子氏による研究不正が発覚したとの報道があったのだ。