2020年5月18日 11:00
コロナで“老舗弁当の味”残せず「木挽町辨松」152年の歴史に幕
店を訪れた記者に、猪飼さんは江戸弁でまくしたてるように話す。
「新聞やらテレビでは“コロナで廃業”と報じられたけど、厳密にはそうじゃないんだよ。僕も今年の夏で68歳。もう、あとちょっとで古希だよ。そうなるとさ、病気とかいろいろリスクが高くなる。それに、うちは後継ぎもいないからね。そろそろやめようかって、そんな話が出てくるじゃないですか」
それでも長年、多くのファンに愛されてきた弁当。猪飼さんは、たとえ自分たちは手を引いても、誰かにこの味と、辨松の名前を継いでほしいとも思っていた。
「それで、去年の夏ぐらいから、(事業を)引き受けてくれるとこを探したんですよ。本当はね、1社決まってたの。あとは監査を済ませて、この4月にもハンコ押そうってとこだった。ところが、そこにこのコロナが重なっちゃった。歌舞伎座は7月までは公演中止や延期が決まった。とはいえ、8月から再開するかっていったら、それもわからない。先が見えなくなっちゃった。譲渡先の企業からは『新事業を起こすには時期が不適切だから少し待ってくれないか』と言われたけど、うちとしてもそれは困る。
それで、譲渡の話は白紙にさせてもらって、廃業することにしたんです。