2022年7月8日 11:00
99歳にして自在に筆を…瀬戸内寂聴さんは最期まで作家だった
東京のスタジオとうまくやり取りができなくなって……。途中で僕が収録を止めました。前半はしっかりと話されていたので、編集で番組は形になったのですが、先生は『(僕に)恥をかかせた。申し訳ない』と、両手を顔にあてて、さめざめと泣いて、『首をつって死ぬ』と言いだされて」
必死で寂聴さんをなだめた中村さん。このようなことになって申し訳ないと思う一方で、感動してもいたという。
「“98歳の人がこうやって泣くのだ!?”と驚いて。この感受性の若々しさってただものじゃない、この人はやっぱりすごい方だと」
■99歳にして自在に筆を運ぶ
最後の撮影となったのは、蛍の季節。寂聴さんが亡くなる半年前の2021年6月のことだった。
「嵯峨野の清滝へ蛍を見に一度ご一緒したことがあり、その話をしながら一緒に飲んだんです。すると、翌朝の朝日新聞の連載に載せる原稿をまだ書いていないことを知って。僕が心配すると、先生は『書くことは決まっている。大丈夫。蛍のことを書く』と」
翌朝の新聞には蛍がテーマの私小説が綴られていた。主人公は、“女と別れるたびに寂庵を訪れている男”……。
「僕らしき男(笑)。でも、男は寂庵に30年来通っていることになっていて、虚実ないまぜで自在に筆が運ばれていて……。