2022年10月24日 15:50
【後編】“最後の絵画展”蛭子さんの今が描かれた作品が完成!
これが臨床美術では重要なようだ。
大倉さんは、その手元よりも蛭子さんの表情をよく見ている。蛭子さんの表情が曇りがちになると、奥さんのこと、映画やテレビ出演のことなど、蛭子さんにとって楽しい思い出を掘り起こしていく。
■苦手の色つけを始めた!
「富士山に色をつけていきませんか?」と大倉さんが、16色セットのオイルパステルを置いた。その誘いに、蛭子さんは、迷うことなくピンク色のパステルに手を伸ばした。
「山なら青か緑じゃないですか」と、私が口出ししようとしたとき、それを遮るように大倉さんが「いいですね、赤富士ならぬ桃富士!」と声をかけた。
「色を自分で選ぶだけでも脳が活性化するんですよ」と小さな声で付け足した。
蛭子さんが52年前に見た日本一の山の記憶は、いま桃色となって心に残っているのかもしれない。
そっくりに描かなくてもいい。心のおもむくままに描きたいものを、塗りたい色で仕上げていくことが臨床美術の重要なポイントだ。
「色をつけるのは面倒くさい」が口癖だった蛭子さんがいま、夢中になって富士山を桃色に輝かせていく。安心して没頭できる環境作り、心を揺り動かすコミュニケーションによって、蛭子さんはスイッチが入ったように創作に取り組んでいる。