パート勤めから“西陣の異端児”へ、世界で活躍する65歳女性
そして、鋸の刃のようにギザギザに削った自分の爪を使って、いま通したばかりの緯糸を「キュキュキュッ」と音をさせながら掻き寄せる。この細かい手法を用いることで、キャンバスに絵を描くように、さまざまな色糸で柄を描いていけるのだ。
「だいたい緯糸5本、つまりいまの作業を5回繰り返して、絵柄が1ミリほどできます。縦20センチの絵柄を織ろうと思ったら1,000回。柄の色ごと、糸ごとにそれを繰り返すので……1日かけてもほんの少ししかできません。細かく難しい柄になると、朝から晩まで根詰めて作業しても、織り上がりはたった1センチ、なんてことも多々あります」(小玉さん・以下同)
極限まで張り詰められた経糸が、ときおり弦楽器のような音を立てる。踏み木も踏むたびにパタンパタンと音を出す。そして、あのキュキュキュッ……。
小玉さんの爪先からはさまざまな音が、リズミカルに鳴り続けている。
「この仕事を始めて10年ぐらいは、歌のある曲はやっぱり作業の邪魔に思えて聴けなかった。でも最近は、集中力が増したのか、気にならなくなりました。