パート勤めから“西陣の異端児”へ、世界で活躍する65歳女性
歌が耳に入らないくらい手元に集中していて『あ、いいとこ聴き逃した』と巻き戻すことも(笑)。でもね、弟子たちが横で作業してるときは、彼女たちが織っている機の音を聞くために音楽はかけません。打ち込みの音がおかしかったらムラができてるし、糸が引き攣れたことも音でわかります。同時に弟子が何人、作業していても、誰の機がどんなトラブルを起こしてるか、わかるんです」
これまで、文部科学大臣賞など、名だたる賞を数多く受賞してきた。加えて、音だけで、弟子の織りの状態を把握できるなど、小玉さんの立ち位置は名人、達人の域だ。だが、そのキャリアのスタートは意外にも28歳と遅かった。
「この世界だと28歳でも中年のおばちゃんだといわれましたね。しかも、最初は主婦のパートだったんです。
結婚した夫の実家が京都で。夫の両親と同居を始めたとき、たまたま見つけたのが、近所のつづれ屋さんの『織り手募集』の張り紙。そこには『素人可』と書かれてたんです」
大阪生まれ、西宮育ちの小玉さん。父親は普通のサラリーマン。それまでに京都で暮らしたこともなければ、織物や伝統工芸とも、まったく無縁の生活だった。