オペラが始まる! 新国立劇場《ウィリアム・テル》稽古初日レポート
作品のふたつの大きなテーマが、「自然」と「自由の希求」。それはロマン主義の基礎になる要素だ。自然はロッシーニの音楽そのものにもしっかりと描かれているし、物語の中でスイスの人々は、自然と強いつながりを持っている。そして徐々に圧政者から逃れて自由を求める。
この状況は今日の私たちにも語りかける。世界には紛争が絶えない。対立は時代に関係なく存在している。その対立の図式から外れているのがアルノルドとマティルドだ。
ふたりは愛に生きることによって社会的な現実の外に身を置くことになる。その葛藤が描かれる。
私は、この作品の最後を次のように解釈している。アルノルドは自身の過去と決別し、マティルドとも決別することを決断する。マティルドも、自分が属していた集団を捨ててしまったがために、すべてを失って完全に孤独になるのだと。非常にロマン主義らしいテーマだ。
ギヨーム・テルは革命の指導者。最初は必ずしも反乱に加わろうと思っていなかったスイスの農民たちも、彼によって少しずつ思いをつないでいく。
ロマン主義では、まず指導的な立場の人物の動きがあって、そこから大きく動き始めるのだ。
このオペラは、動きのあるオラトリオとも捉えることができる。