2021年10月23日 18:00
藤ヶ谷太輔が稀代のプレイボーイに 情熱と哀愁漂うミュージカル『ドン・ジュアン』東京公演開幕
女性ダンサーが身にまとう赤いドレスも鮮烈な印象を残す。幻想感と、土を感じさせるリアルさが交互に襲い、独特の中毒性があるミュージカルだ。その情熱の物語の中で、藤ヶ谷太輔のドン・ジュアンは強烈な閃光を放つ。“あらゆる女を魅了する”という設定に違和感のない色男であるのはもちろんのこと、欲望のまま遊んでいるようでいて、どこか心に空いた穴を埋めようともがいているような切なさがある。何よりも佇まいと存在感がいい。
主役でありながら冒頭15分近く歌も台詞もなく、ダンスとその存在感だけで観客の視線を掴み続けるのは並大抵のことではない。野生動物のような荒々しさは、繊細な真実の姿を傷つけないための防衛本能か。……そんなことを考えているうちに、ドン・ジュアンの魅力にすでにとりつかれている。
ドン・ジュアンを取り巻くキャラクターも粒ぞろいだ。ドン・ジュアンの友人ドン・カルロ役の上口耕平は、ダンスに歌に大活躍しつつ、欲望や本能に走る登場人物たちに引っ張られがちな物語に、理性的な視点を加える。コスチュームの似合うスタイルの良さも魅力的だ。
マリアの婚約者ラファエル役の平間壮一は前半と後半でガラリと違う表情を見せ、クライマックスの決闘シーンでは圧巻の立ち回り。