2021年10月23日 18:00
藤ヶ谷太輔が稀代のプレイボーイに 情熱と哀愁漂うミュージカル『ドン・ジュアン』東京公演開幕
騎士団長役は吉野圭吾。ドン・ジュアンの運命を操るかのような存在感を、鮮やかなフラメンコのステップとともに出せるのはこの人くらいだろう。
ドン・ジュアンの厳格な父を演じる鶴見辰吾もさすがの存在感で、物語に重みを出している。自らこそをドン・ジュアンの妻だと信じるエルヴィラ役の天翔愛は初々しいからこその狂気が見てとれたし、日本を代表するバレエダンサーである上野水香も妖しい芳香と素晴らしい踊りで魅了した。ドン・ジュアンのかつての女イザベラ役の春野寿美礼のベルベットヴォイスは、このミュージカルの情熱の音楽をひときわ輝かせる。
そして、真彩希帆扮するマリアには、陽の光を感じさせる健康的な清らかさがある。刹那的に生きるドン・ジュアンとは対照的に、真彩のマリアは、地に足をつけ日常を生きている。
マリアはドン・ジュアンに“真実の愛”を気付かせる女性だが、その“真実の愛”とは日常そのものなのではないかと思わせる存在感だ。常に毛を逆立てているようなドン・ジュアンにとってマリアは、彼女の前では深呼吸ができるような相手であることが、お互いの表情から伝わってくる。宝塚屈指の歌姫と呼ばれた、美しい歌声も健在だ。