くらし情報『人間は戦争を止めようとしないー演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た、『ミス・サイゴン』』

2022年8月20日 12:00

人間は戦争を止めようとしないー演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た、『ミス・サイゴン』

ミュージカル『ミス・サイゴン』より、キム役・高畑充希


『ミス・サイゴン』は、1970年代末に起きたベトナム戦争の最中、夢と欲望と愛を求めながら苦しんだ米兵とベトナム人女性を描いたスケールの大きいメガミュージカルである。日本初演から30年目の今回、コロナ禍によって2020年の全公演が中止となり、満を持しての上演だった。

※以下、『ミス・サイゴン』ラストシーンに言及しています。

主役のひとり、エンジニアと言えば市村正親の当たり役。初演からほかを寄せ付けない絶対的レジェンドだ。しかし、今公演は俳優4人の交互出演。見たのは初出演の伊礼彼方である。外見、さらに派手な衣装の印象からフランス系ベトナム人という異国風のキャラクターの役柄にハマっている。


売春宿のキャバレーを経営しながらアメリカへ渡って成り上がる野心がギラつく。女たちを客に売り込み、金儲けに腐心する冷酷さ、憎味が効いていた。「アメリカン・ドリーム」を激しく、熱く歌い、「グッドバイ、ホーチミン!」と言い放って、ストップモーションでポーズを決めた恰好良さ。ストレートプレイの『ダム・ウェイター』で悪の個性を演じて巧かったが、市村のエンジニアが愛嬌も振りまく抜群の魅力と比べ、スタイリッシュで欲望が勝つ新エンジニア像を作った。

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