くらし情報『人間は戦争を止めようとしないー演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た、『ミス・サイゴン』』

2022年8月20日 12:00

人間は戦争を止めようとしないー演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た、『ミス・サイゴン』

もうひとりの主役キムは高畑充希。米兵クリスとの間に生まれた子供・タムへの母性愛を歌う「命をあげよう」が歌詞の意味を巧く伝えた。かつての許嫁トゥイを銃殺し、遺体にすがりつく場面は、自ら祖国を殺したことになる悲しい運命を感じさせて感動的だった。そして衝撃的な自殺。戦争は悲劇しか生まないのである。

サイゴン陥落、脱出を求める市民。ヘリコプターの轟音という場面はいつも恐ろしい。キムとクリスがやたらとキスをするのは閉口するが、エンジニアに「おじさんにキスを」と言われて幼くかわいいタムが頬にチュっとやって口を拭う一瞬は一服の清涼になる。


市村は今公演を「最後のつもりの集大成」だと言っている。アメリカが当時の北ベトナムに敗北した歴史的な戦争は、遠い過去になった。しかし、人間は戦争を止めようとしない。『ミス・サイゴン』はそれを問いかけている。

さて、もし市村の後継者がこの作品を演じ続けるとすれば伊礼は有力なそのひとりになるだろう。(8月2日所見)
プロフィール
大島幸久(おおしま・ゆきひさ)
東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。
スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。

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