尾崎世界観が、またクリープハイプというバンドが、ただの恋愛ソングをつくるわけがない、という前提に立ってみても、この「青梅」という曲は、言葉を選ばずに言えば、ぶっ飛んでいる。
まず、サウンドに関して言えば、程よくバンドの輪郭が溶けている。イントロのエフェクティヴなギターとシンセのユニゾンからすでに時空は歪み始め、そこに四つ打ちのビートがこれ見よがしなくらい過剰とも言える鳴りで響き渡る。さらに、打ち込みのハイハット、クラップ、シンセベースまで加わる。そのようなイクイップメントを装備したこの曲が、ではダンスミュージックかと言われれば、まったくそんなことはない。きちんと――というか、ギリギリのところでバンドサウンドとして成立しているのだ。
バンドはなぜこのようなサウンドを志向したのだろう?
私が感じたのは、絶対的な価値基準の在り処を示すのと同時に、その曖昧さをも表そうとしたのではないか、ということだ。
歌詞に目を移すと、ふたりの男女が真夏に出会った瞬間を描いたものになっている。
〈ひとりで酸っぱい顔をしてた〉季節から〈ふたりで酸っぱい顔をしている〉真夏への変化は実にドラスティックだ。ここで注目したいのが、彼らはこの世界でふたりきりなのだ、というある意味残酷――にして最高に幸福――な事実が浮かび上がってくるということだ。