八月納涼歌舞伎『髪結新三』。中村勘九郎が語る、念願の初役──撮り下ろしスチールも公開
同時に、群像劇としての魅力も指摘する。
「新三ひとりでは成り立たない世界観がある。父の新三でずっと勝をやっていたあーちゃんにいに(松本幸四郎)が弥太五郎源七で、大家さん(家主長兵衛)で坂東彌十郎さんも出られる。そして、手代忠七で弟が出るのも感慨深い。呂律が回らない子どもの頃に台詞を言い合っていた“永代橋”をふたりでできるのは、“エモい”なと(笑)。さらに中村扇雀さんは後家お常で締めてくださる。皆でこの江戸の町、粋というものを表現できたらいいなと思っています」
皆、必死に生きているからこその魅力
5、6年前から、自らやりたいと申し出ていたという新三。ようやくそれが叶った今年は、奇しくも父・勘三郎十三回忌の追善イヤーだ。
「父が、見えない力で助けてくれた、この話を通してくれたのかなという気持ちもあります。新三はとにかくエッチじゃないといけない。色っぽい、ではなくて──。そのエッチさというのは、父の、祖父の、あの匂い立つようなもの──それをどう表現すればいいかっていうのは、ないんです。早くやりたかったというのはそういうことで、積み重ねていくことで変わっていくものがあるんじゃないか。スタートダッシュは遅かったけれど、これから工夫していきたい」