新国立劇場『テーバイ』開幕レポート到着 ひとつの王国が衰退していく、壮大な物語に
そもそも、長く受け継がれてきたギリシャ悲劇そのものが揺るがない強さを持っているのはもちろん事実だが、それだけでなく、1年もの時間を費やして戯曲を育てていくという「こつこつプロジェクト」という企画による部分も大きい。期日の決まった上演に向けて拙速に都合よくまとめ上げるのではなく、時間をかけてじっくりと戯曲と向き合い、試行錯誤を重ねながら文字通りこつこつと断片を積み上げていくことで、物語が成熟し、深みを増していく。3本の戯曲の“継ぎ目”を感じさせず、ひとつの王国が、為政者たちの愚かな振る舞いによって衰退していくひとつの壮大な物語として描き出される。
また、3つの物語が連なることで、浮き彫りになってくる登場人物たちの変化や人間の本性が見え隠れしてくるのも本作ならではの見どころ。第一幕『オイディプス王』では、近親相姦と父殺しという罪が明らかになっても、なおも王たる力強さを感じさせていたオイディプスだが、第二幕『コロノスのオイディプス』では、長い旅の果てに神によって定められた己の運命を静かに受け入れ、神々と和解するさまが描かれる。
また、劇中で描かれない月日も含め、そんな父の長きにわたる放浪の旅に寄り添い続けてきたアンティゴネだからこそ、神ではなく人間が定めた法律に背き、血を分けた兄を弔うことを選んだのだということが深く納得させられる。