新国立劇場『テーバイ』開幕レポート到着 ひとつの王国が衰退していく、壮大な物語に
そしてもう一人、この『テーバイ』において、いびつな存在感を発揮しているのがクレオンである。『オイディプス王』では、オイディプスの数奇な運命が解き明かされていくのを“脇役”として慌てふためきながら傍らで眺めているが(ある人物のセリフで「クレオンなど一介の脇役にすぎぬ」という言葉さえ出てくる)、オイディプスの息子たちの争いの果てに、『アンティゴネ』ではテーバイの王の座に就いている。中身が変わらぬまま立場が変わり、不相応な権力を握った男の小物ぶりが際立っており、『アンティゴネ』の物語が展開する王の間は、さながら政情の不安定に直面しつつも目先の支持率アップに奔走する総理大臣以下、閣僚たちが集う官邸のようにも映る。
また、ギリシャ神話の英雄カドモスの子孫だけが国を治めることができるという、“血”によって継承されてきた王国のテーバイと、同じく英雄であるテセウスがトップに立つが、彼は王ではなく民主政の代表に過ぎないという市民国家・アテナイの対比も『コロノスのオイディプス』と『アンティゴネ』の中で浮き彫りとなっており興味深い。
船岩のスタイリッシュな演出も相まって、二千年以上前のギリシャ悲劇であることを一瞬忘れ、疫病と戦争が世界中にはびこる現代の世界と重ね合わせながら「法とは?」