宮沢りえ&磯村勇斗が挑む唐十郎の伝説の戯曲。迷宮のような世界を美しく力強く立ち上げる。
すごく気持ちいいところがきっとあるんだろうなと思うので、気持ちいい音色を出したいなと思っています。
実際にそこに生きている人たちの魂が作品の中に生きている
――おふたりが演じられるのは、港町を去って今は都会のブリキ店で暮らす蛍一と、蛍一を探しに現れるやすみ。その背景には、干拓事業の賛否に揺れる諫早湾の話があります。
宮沢これまで私が出演してきた唐さんの戯曲の中で、実際に起きている問題が根底にあるのはこれが初めてなんです。だから、この『泥人魚』は今までとちょっと違うなと思っていて。もちろん、これまでも取材をして書かれることはあったでしょうし、テーマもしっかりあったんですけど。でも、干拓によって海の生態系が変わって生きる術を奪われた漁師さんたちが実際にいらっしゃって。日本の発展のために堤防が作られて泥水のようになった海に、漁師さんたちの心も沈められて、見えないところに様々な対立があって、今も未解決であるっていう事実は、その人たちを取材して書かれた唐さんの本を体現するときに、エネルギーのひとつになるのではないかなと思っているんです。
磯村蛍一という役にとっても、“ギロチン堤防”と呼ばれているものがひとつの肝になっていて、それが原因で人生が変わっていっていくんです。