2023年8月5日 17:00
よりよく生きた、それぞれの道程を祝福する舞台 asatte produce『ピエタ』
も加わって、クライマックスへ向けてさざなみの感動を紡ぐ。ヴィヴァルディから恩恵を受けた彼女たちに共通するのは、その恩を次の誰かに渡していこうとする神聖な眼差しだ。その“恩送り”の精神を実直に発揮するジーナが非常に頼もしく、高野の抑えた丁寧な表現が光る。芸術の道に進まなかった人生を悔い、ジロー嬢に嫉妬する人間味も愛おしい。
ジーナ役・高野ゆらこ
クラウディア役・峯村リエ
クラウディアは、原作小説からはいわゆるカリスマ、神秘性漂うクールな女性をイメージしていたが、峯村はそこに少女特有のきらめきを混ぜて来た。時を巻き戻すかのような躍動感あふれる語り口が瑞々しく、相手を虜にする存在感は年老いた姿になっても色褪せない。その魅力を瞬時にキャッチするヴェロニカもまた、心の揺れに寄り添いたくなる素敵な女性である。未亡人である身の、財を持ちながらも満たされぬ孤独を憂い、貴族政治の腐敗に怒りをぶつけ、少女時代の仲間との絆を心から尊ぶ。感情の大きな振り幅を真っ直ぐに体現する石田の、清らかな声の響きに救われる。楽譜の謎が解かれた時に溢れ出る、ヴェロニカの澄んだ涙に打ち震えずにはいられない。
ヴェロニカ役・石田ひかり
それぞれに輝く石を繋げ合わせる糸となり、慎ましく駆け巡るエミーリアには、この『ピエタ』実現に最高の布陣を構えたプロデューサー小泉がどうしても重なってしまう。