戦場の厨房で安田顕×林遣都が繰り広げる謎めいた舞台『死の笛』
不明瞭ながらも、その語りから、彼が娘を無残にも殺された過去を持ち、その復讐のために犯人が現場に残した証拠品の軍靴を履き、犯人が再び現れるのを待っているということがわかってくる。
しばらくすると、林が演じるもうひとりの男も姿を見せる。安田と同様に薄汚れた衣装を身にまとい、こちらも文法のおかしな日本語を話し、同じく炊事に勤しむ。
そこでふたりは初めて顔を合わせ、言葉を交わすが、なんとも嚙み合わないふたりの会話の断片から、そこが戦場で彼らは炊事担当の兵士であり、ふたつの国が彼らの真下を通っている地下鉄の権益をめぐり争っていること。そして彼らのいる場所(中央の仕切り)がちょうどふたつの国の境であり、彼らは敵同士であることがわかってくる。
互いを警戒しつつも、“炊事兵”であるふたりは殺し合うことはせず、それぞれの仕事に打ち込みつつ、言葉を交わし、徐々に打ち解けていく。戦場で敵同士の兵士たちの姿を描く物語は、ボスニア紛争の中立地帯を舞台にした映画『ノー・マンズ・ランド』をはじめ、数多くあるが、本作は戦場における感動の友情物語というだけではない、なんともミステリアスな空気をまとっている。