戦場の厨房で安田顕×林遣都が繰り広げる謎めいた舞台『死の笛』
時折、激しく鳴り響くブザーと無線から聞こえてくる謎の声。ふたりが決まった時間に打たなくてはいけないことになっている怪しい注射(安田演じる男はそれを“生きる薬”と呼ぶ)。林が演じる男がジャングルで出会い、恋焦がれる、近隣に暮らすという“リップルさん”という名の女性。そしてタイトルにもなっている「吹くと死ぬ」と言われている “死の笛”など、ところどころに謎めいた伏線が散りばめられているが、第3幕の終盤から最終第4幕にかけて、物語を覆っていた霧が晴れ、全ての謎の答えが明らかになり、彼らがいる世界の姿が戦慄と共に浮かび上がってくる。
ふたりは何者なのか? 戦争の結末は? 安田が演じる男の娘が殺された事件の真相は? この戦場の厨房で何が起こっているのか――?
ちなみに、事前に公開されている本作のプロモーション映像では安田と林が、戦争や戦争とは結び付かない洒落たスーツに身を包み、ベンチに腰掛ける姿が映し出されているが、最後まで物語を見ると、なぜ彼らがスーツ姿だったのか「なるほど」と思わされる仕掛けになっている。
最初は意味不明だが、慣れてくるとコミカルに思えてくるおかしな日本語で奇妙な会話を繰り広げ、観客を物語に引き込んでいく安田と林の見事な演技力、緻密な舞台美術に加え、重要な場面で奏でられる平松由衣子によるチェロの生演奏が、この物語の世界観の一翼を確かに担っている。