『碁盤斬り』白石和彌監督インタビュー。目指したのは「荒々しさよりも美しさ」
だから撮影でも表現しきれない部分があるのであれば、俳優の演技と表情で勝負して、どちらが優勢なのかわかる部分は盤面も撮っていくようにしました」
結果、完成したシーンは、囲碁の盤の状況、石を置く俳優の指先、そして局面によって変化していく俳優の表情、座り方、姿勢が組み合わさり、囲碁のルールがわからなくても、ふたりの戦いがどのような状況なのか手に取るようにわかるシーンになった。本作で重要なのは、囲碁の結果ではなく、盤を挟んで対峙する人間のドラマ。どんな精神状況にあるのか? どんな想いで一手を投じるのか? この取材は結果として柳田格之進の描写にも影響を与えることになった。
「棋士は一見、静かに座って打っているようでも、実は『こいつは人を殺すぐらいの気持ちで打ってるんだろうな』と相手に対して思うことがあるそうなんですよ。『こんな局面で、こんな手を打つのか! こいつはヤバいやつだ』っていうような。
そういう“一線を越える”瞬間が、武士の格之進にもあると思うんですけど、それは囲碁の話を聞いて発想したことなんです。もちろん、僕にはそれがどんな手なのかわからないですし、達人にしか打てない手はあると思うんですけど、棋士の方の話からヒントをもらうことは多かったですね」