2023年4月10日 12:00
【おとなの映画ガイド】こんな時代劇は初めて! 江戸、厠(かわや)の恋の物語──『せかいのおきく』
ドラマは、雨模様をながめながらの三人の会話から始まる……。
「下肥買い」の矢亮は、江戸で買った糞尿を集めて、船で地元 葛西の農家に運ぶ。肥だめに収容し、発酵させたのち、畑にまき、野菜の肥料とするのだ。作られた野菜は、江戸で消費され、江戸市民が食し、糞尿となって排泄される。この時代、まさに循環経済=サーキュラー・エコノミーが成り立っていた。糞尿にもランクがあって、最高は江戸城からでるもの、次に武家屋敷。最低ランクが庶民の長屋の共同便所だそうで、この映画では、そんな長屋の厠が主要な舞台になっている。
この循環スタイルは、都会では戦後まもなく下水道が完備され姿を消したが、田舎には昭和30年代、40年代まで存在した。
肥だめをうっすらご記憶の方も多くいると思う。
中次の「紙くず買い」は、古典落語でもおなじみの職業だ。江戸の町を流して、反故にした紙や不要になった帳簿を安価でひきとる。それをすき直して再利用する。いわゆる再生紙だが、これは、現代にも引き継がれている。
中次は、雨宿りで仲良くなった矢亮に誘われ、「下肥買い」に鞍替えする。おきくは、やはりこの雨宿りが縁で、中次に恋心をいだく……。