師走を彩る豪華ラインナップで歌舞伎の多彩な魅力を。歌舞伎座12月公演「十二月大歌舞伎」開幕
続く場面では、姪の奉公先へ道玄と内縁の妻お兼(中村雀右衛門)が強請りに行く。道玄のふてぶてしさと、お兼の小悪党ぶりに思わずハラハラしながら強請りの現場を見守る。ようやく道玄たちがお金を手に入れたところへ松蔵が現れ事態は一変。ここでも黙阿弥らしい七五調の名台詞での道玄と松蔵のやり取りが聞きどころとなる。いよいよ、道玄とお兼の悪事が露見すると、可笑しみ溢れる立廻りに客席からは笑いが漏れ、最後はすっきりと晴れがかった結末と、どこか憎めない道玄に大きな拍手が送られた。
続いては、長唄舞踊の名作『鷺娘(さぎむすめ)』。幕が開くと、しんしんと雪の降る水辺に、綿帽子に白無垢姿の娘がひとり佇んでいる。傘を差したこの娘は、人間との道ならぬ恋に悩む鷺の精(中村七之助)。
恋に思い悩む様子を踊りで見せていくが、ところどころで鷺の精であることを想起させる。衣裳が引き抜かれ、艶やかな町娘の姿となると、客席からは驚きとがらっと変わった雰囲気への期待感に包まれる。曲調も変わり、恋しい男と結ばれた頃の様子を踊ると、今度は男心のつれなさを訴えていく。美しい娘が踊る女心にうっとりしていると、舞台は降りしきる雪の中へ。恋の妄執が甦り、ついに鷺の精の本性を顕していく。