【レポート】4人のキャストが紡ぎ出す上質なカルテット。ミュージカル『ラフヘスト~残されたもの』
古屋は奥手なようで、ヒャンアンに熱烈なアプローチをする情熱も持ち合わせたファンギを、チャーミングに好演。
そして舞台上でおこるすべてを包み込むのが、ヒャンアン役のソニンだ。愛する人を一度失い、また評論家としてすでに独り立ちしている彼女がとまどいながらファンギの情熱を受け入れていくという大人の恋愛模様を繊細に紡いだかと思えば、ファンギを世界の画壇へ引っ張っていくパワフルさも説得力をもって魅せる。経験を重ねても、さらに新たな人生を切り拓いていくヒャンアンのまぶしいほどの力強さ、ファンギやイ・サンだけでなく過去の自分(トンリム)をも抱きとめる懐の深さを、知的に穏やかに、でも可愛らしく演じるソニンの魅力が作品を牽引した。
芸術家たちは時に孤独に陥りながら、自分と戦い誰かを愛し、作品を作る。そして彼らがいなくなっても芸術は残り、その作品は誰かに影響を与えていく……。人生に、創作に苦悩する芸術家たちの姿から伝わるのは、「それでも人生は美しい」という前向きなテーマ。ピアノとバイオリンの生演奏に乗せて届く楽曲も、クラシカルで美しいものばかり。観終わったあと自分の人生をも顧みるような深みのある物語を、4人のキャストが上質なカルテットとして紡ぎ出した。