2022年4月3日 12:00
ユーモアと皮肉と醜さのスパイスを効かせた人間喜劇―演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『冬のライオン』
撮影:田中亜紀
国王ヘンリー二世と妻エレノアが軽い笑みを浮かべて腕を組みながら舞台奥へとゆっくり歩みを進めていく最後の場面は、やっぱりと納得はしたもののふたりの愛情の不可解さを思わずにはいられなかった。森新太郎が演出した『冬のライオン』。ユーモアと皮肉と醜さのスパイスを効かせた人間喜劇を見せつけた。
物語の縦糸は“冬のライオン”であるイングランド国王の跡目問題である。息子3人の中から誰を選ぼうか。権力者や富裕者の欲望とは始末に悪い。疑心暗鬼になり易く、自己中心に陥る。演じたのが佐々木蔵之介。
考えが合わない年上の妻エレノアを幽閉し、息子を試し、愛妾であるフランス王女アレー(葵わかな)や隙を狙うフランス王フィリップ(水田航生)を巻き込む骨肉の争いを繰り広げる。これが横糸。
国王ヘンリー二世とその妻を演じる佐々木蔵之介と高畑淳子
溺愛する長男リチャード(加藤和樹)に王位を譲り、アレーと結婚させたいエレノアが高畑淳子。国王夫妻は、意見対立のみならず、まだ愛に溢れていた頃の過去を引き合いに出す。佐々木と高畑は猛烈な罵り合いが多弁、それも夫婦漫才の如く、しゃべりまくる。だが、却ってその言葉の闘いが心地良くなったのが不思議だった。