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【水先案内人 高崎俊夫のおススメ】宿命の女 ルイズ・ブルックス 『ハリウッドのルル』刊行記念
サイレントからトーキー初期にかけてそのあまりに誘惑的なボブヘアで日本でも熱狂的なファンを擁した映画史上最高のファム・ファタール(宿命の女)がルイズ・ブルックスである。かつて1980年代には、彼女のカルト的信奉者であった作家の大岡昇平が豪華本『ルイズ・ブルックスとルル』(中央公論社)で熱烈な賛辞を捧げたことはよく知られている。シネマヴェーラ渋谷の特集は、最重要文献であったルイズ・ブルックスの回想録『ハリウッドのルル』(宮本高晴訳・国書刊行会)の刊行を記念して組まれたものである。

『ハリウッドのルル』書影
ルイズ・ブルックスは皮肉な厭世家で、ショーペンハウエルやプルーストを愛読するほどの類まれな知性派であり、辛辣なハリウッドの観察者であった。本書でもリリアン・ギッシュ、ハンフリー・ボガートといったスターたち、彼女の出世作『パンドラの箱』(29) の監督、G・W・パプストらをめぐる秀逸なポルトレは読み応えがある。