“自分”を愛せなければ幸福にはなれない。『ロケットマン』監督が語る
しかし『ロケットマン』では相反する要素が同時に描かれる。質素な家のピアノで淡々と弾き語りされる『ユア・ソング』はビジュアルはシンプルだが、この上なく豊かで幸福に満ち溢れている。一方、エルトンが“ラスボス”級のド派手な衣装を着て歌いまくるシーンでは、苦しくて哀しくて出口の見えない感情が描かれる。
「この映画の根底にあるテーマは“本来の自分を捨て去って、どれだけ遠くに行こうとしても、どれだけ新しい自分になろうとしても、本来の自分とちゃんと向き合って、理解して、折り合いをつけない限りは幸せになれない”というものです。劇中のエルトンは“本来の自分”を見ないようにするため、空想の世界に生きようとします。でも現実から離れていこうとすればするほど、現実の世界に引き戻されてしまう。つまり、この映画におけるファンタジックな空想の世界と、厳しい現実はいつも“紙一重”の場所にあります」
ポイントは、華やかさと苦しみが同居するエルトンの人生を観客が“体感”するように描かれていることだ。「私が関わった『ボヘミアン・ラプソディ』はヒットもしたし、良い映画になったと思いますが、あの作品はあくまでも観客が第三者的な立ち場で“そうなんだ。