1日開幕の「十一月歌舞伎座特別公演 ようこそ歌舞伎座へ」 普段は見ることのできない舞台裏の映像も
続いては、河竹黙阿弥作『三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)』。幕末の頽廃的雰囲気を漂わせ、流麗な七五調の台詞が聞きどころの黙阿弥の代表作のひとつだ。この度は同じ「吉三」の名前を持つ三人の盗賊が月夜の晩に出会う「大川端庚申塚の場」を上演。
節分の夜更け、女を偽り盗みを働くお嬢吉三(尾上左近)は、夜鷹から百両の金を奪い取る。お嬢が「月も朧に白魚の……」の名台詞を朗々と語ると、客席を一気に作品の世界へと誘う。その様子を見ていたお坊吉三(中村歌昇)が駕籠の中から現れると、ふたりは百両の金をめぐって争う。ふたりの仲裁に入ったのは、和尚吉三(坂東亀蔵)。刀を切り結ぶお嬢とお坊を、和尚が割って止める美しい絵面では、客席の緊張感が高まる。
その後三人は、和尚のとりなしによって義兄弟の契りを交わし……。歌舞伎の様式美を目で見て、耳で聞いて楽しむ一幕に、大きな拍手が送られた。三幕目は、華やかな毛振りが見どころの舞踊『石橋(しゃっきょう)』。
唐の国の清涼山にある石橋のもとには、文殊菩薩の使いである獅子の精(尾上松緑、中村萬太郎、中村種之助、中村福之助、中村虎之介)が現れる。美しく咲き乱れる牡丹の花のなかで獅子の精たちが戯れ、舞台上には獅子の勇猛さとともに、神秘的な雰囲気が漂う。