生命がけで人間の尊厳を問う・池内博之、鈴木杏ら白熱のパワープレイ
、アビーの叔父で牧師ながら現実的な利に敏いパリス(檀臣幸)、悪魔祓いの専門家ヘイル牧師(浅野雅博)、そして村人の慈母的存在ながら魔女疑惑にさらされる敬虔な信者レベッカ(佐々木愛)、権威を振りかざして村人を厳しく糾弾するダンフォース副総督(磯部勉)ら。欲望を抑えきれずアビーと肉体関係を持ってしまうプロクター。アビーはプロクターを自分のものにすべく、村の娘たちと呪いの儀式を行い、それをパリスが目撃したことから騒ぎが始まる。無信仰に近い現代日本とは違い、セイレムでは神の存在そのものが法律以上に人々を縛っている。アビーは神を正と邪、善と悪の間に線を引くための「凶器」に変え、エリザベスら敬虔な信者たちを悪魔の手先として次々に絞首台へと送り込んでいく。
恋情から狂気に走るアビーを、全身に暗い炎をまとうように熱演する鈴木杏は従来のイメージを刷新する存在感。一方、信仰と罪悪感と妻への愛に引き裂かれながら人としての尊厳を守り通そうとするプロクターを、池内はエネルギッシュかつ情熱的に演じる。加えて、真摯に自身と夫、神に向き合おうとする栗田と、通俗的な人間らしさむき出しで弱者を代弁するかのような檀、信仰と真実の間で懊悩する浅野、信念と盲信を混同する愚かさを体現する磯部と、生命を賭して信仰を全うする佐々木ら、新劇俳優陣の端正な演技が作品に深みを与える。