(大和田)と意欲的だ。
宮沢賢治の生涯を描くといっても、賢治が書いた童話の登場人物が現れるなど、そこには渡辺ならではのめくるめく世界が待っている。たとえば、渡辺作品には2度目の出演となる大沢は、現実と賢治の作品世界とを行き来する“天使猫”をはじめ、様々な役に扮するのだが、「何役も演じるのは点と点を飛ぶようなものなんですけど、そこを結ぶものが見つかったときにパーッと拓ける感動がある」(大沢)という。また念願の渡辺作品で、おもに賢治の妹のとしを演じる大和田。「こういう人物だという思い込みがあっては演じられない戯曲。多面的に捉えていかないと。大変なことに挑みたいと思っている今、えりさんの作品に出会えてよかったです」(大和田)と燃えている。
想像広がる芝居の根底には、「宮沢賢治は、飢饉や自然災害に苦しみながら耐えている東北人を見て、農民のために死のうと決めた人。
その生き方を通じて、東北のことを考えてほしい」(渡辺)という思いが流れている。しかし、「主義主張を言葉でストレートに伝えるのは演劇人じゃない」(渡辺)という矜持がこの作品を誕生させた。演劇だからこそ感じられるものを、思う存分受け止めたい。