そんな流されていく大人たちを、春一はひとりクールに見つめ、やがてそれでは何も解決しないと声を上げることになる。「前半はほとんどしゃべらないんです。だから、しゃべらないでそこにいるのってしんどいなと思いながら(笑)、大人たちを見ているんですけど。でも、そこでちゃんと見ておくからこそ、自分が話すときにもしっかり熱が入るというか。普通、大人に対して正面切ってものを言うことなんてないから、ものすごくパワーがいるんですけど、すごくやりがいのある役をやらせていただいているなと感じています」
さらに、春一は若年性アルツハイマー病を発症した父がいるという役で、演じるにあたっては、被災地の現状についてはもちろん、アルツハイマーのことも調べた。が、「調べたということに酔うことなく、フラットに演じたい」ときっぱり。「僕自身が感じたことを出すのではなく、大切なのは春一の意見や思いを出すことで…。僕たちがフラットに演じることによって、観てくださる方にも、こんな現状があるんだと、ただまっすぐ伝わるんじゃないかと思うんです」。
伝えることの責任を背負いながら舞台に立とうとしている。この誠実な役者が見せてくれる、とある家族の現実。