1936年にノーベル文学賞を受賞したアメリカの巨匠劇作家ユージン・オニール。その最高傑作『夜への長い旅路』には、麻実れい、田中圭、満島真之介、益岡徹のきらびやかな実力派が結集し、この4人を、濃密でドラマティックな舞台作りで注目を集める演出家・熊林弘高が束ねる。家族の悲劇を生々しく描くこの舞台の初日をレポートしよう。
「夜への長い旅路」チケット情報
うす暗い照明の下、濃い茶色の板の間が舞台中央に横たわる。その左右両脇に広がる灰色の砂。タイロン一家の別荘である。客席通路の階段を、満島真之介演じるエドマンドが無言で降りてきて、舞台は始まる。4人家族の壮絶ないさかいの記録。
たった1日の物語。
麻実れいが演じる妻のメアリーは、全身が一本の美しい線。知的でもの静かな女性だが、次男の結核を認められず、また、深刻な麻薬中毒に陥っていて、その言動は不安定だ。感情と視線と手の動きが、絶え間なく漂っている。静謐で、気高い狂気。
田中圭の長男ジェイミーは、恐らく、この一家で一番、残酷な真実から目をそらさずにいる男だ。母の麻薬中毒についても、弟の結核についても、躊躇なく直言。田中圭が、まっすぐ俊敏なセリフと動作でこの男を描く。