「その三拍子が見事に揃った」と付け加えたところで、よくある褒め言葉であることに変わりはないだろう。だが本作は、それでもあえてそうした言葉で讃えたくなる、正統派の魅力に満ちている。キャラ設定はそのままに一人ひとりの心情がより深く掘り下げられた脚本、同じソングライターの楽曲が追加採用された音楽構成、アステア・スタイルを踏襲した上で舞台ならではのダイナミズムが加えられた振付。80年近くも前に作られた映画が、奇をてらった斬新な表現に走ることなく、ひたすら丁寧で丹念な色付けによって現代に蘇っているのだ。
そうした作品自体の質の高さに加え、特筆すべきは主演のふたり、アラン・バーキットとシャーロット・グーチの抜群のコンビネーション。オリヴィエ賞にも輝いたビル・ディーマーの振付は、オーディションの途中で諦めて帰る役者が続出したと言われるほど複雑だ。そのステップを軽々と楽しげに踊りこなすふたりは、それぞれ単体で見ても十分にエレガントでチャーミングなのだが、その本当の真価はペアダンスでこそ発揮される。互いの脚がまるで吸い付き合うように共鳴しながら動き、腕が全く同じタイミングと角度でシンクロする《CHEEK TO CHEEK》の興奮を、ぜひ生で体感してほしい。