笑福亭鶴瓶は、テレビの視聴者も落語の観客も突き放さない。徹底的に寄り添う。では、『山名屋浦里』で付け加えられた描写とはなにか。それは、浦里という美しき花魁の悲哀や情を、肩書きではなくひとりの人間として描くということ。
「『山名屋浦里』は、タモリさんがブラタモリで知った実話をもとに僕が落語にさせてもらったものやけど、(中村)勘九郎が歌舞伎にしたいと言うて実現する。そのこと自体はものすごくうれしかったんですけど、一方で歌舞伎との戦いが始まったとも言える。歌舞伎版『山名屋浦里』を見てくれた人が、鶴瓶の落語も聞いてみようかとなってもチンケなものだったら意味がわからないでしょ。そうじゃなくて、落語はすごいなぁと感じてもらいたい。
あと、歌舞伎と比べればチケット代も安いなぁとかね(笑)。最近、ひとつのことを考え続けられる幸せってあるんやなぁと思うんです。『山名屋浦里』のことをずっと考えていなければ、飛行機での言葉も降りてきてはくれなかったと思いますから」
飛行機での言葉たちを紡いだ場面を、取材現場で実際に演じてくれた笑福亭鶴瓶。圧倒的なサービス精神を持つ話芸の達人は、同作だけでなく“あの”『鶴瓶版・死神』をも改訂し、今年の独演会にかける予定だと言う。