2016年8月12日 12:15
5年ぶりの再演・虚構の劇団『天使は瞳を閉じて』開幕
その小さな発端の連なりや、そこから生まれる別の感情、なにかのきっかけで弾ける残酷さ……そういったものが一つひとつ丁寧に描かれ、演じられている。また、鴻上作品ならではの笑いやダンスのシーンは楽しい。ユタカ(上遠野太洸)とマリ(鉢嶺杏奈)の新婚夫婦がいちゃつく姿では、美男美女の壊れっぷりに笑った。物語は少しずつ回転速度を上げていく。いつでもやり直せた日々は、気付けばもう引き返せない速度で動いており、舞台上の空気も変わってしまっている。そんな変化をただ見つめることしかできない天使(小沢道成)の表情は、やさしく切なく悲しい複雑な色をしていた。
上演前、舞台上には「通行制限中帰還調整区域につき通行止め原子力災害現地対策本部」と書かれた看板が立っていた。本作はもともとチェルノブイリの原発事故を発端に書かれたものだが、今その看板は身近で生々しいものになった。
1988年に書かれた戯曲が驚くほど今とシンクロする。過去に観たことある人も、ない人も、ぜひ“今”観てほしい作品だ。『天使は瞳を閉じて』は8月14日(日)まで東京・座・高円寺1にて。その後、愛媛、大阪、東京にて上演。
取材・文:中川實穗
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